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ブルーノ=レオナルド・ゲルバー/ピアノ・リサイタル

彩の国さいたま芸術劇場で、表題のピアノ・リサイタルを聴いた(5月11日)。『悲愴』『ヴァルトシュタイン』『テンペスト』『熱情』という、オール・ベートーヴェン・プログラム。しかも、すごい名大曲ばかりだ。

この人の響きの美しさは健在だった。テクニカルという意味での盛りは過ぎてしまったかも知れないが、当日後ろの席に座っていたお嬢さんが「ミス・タッチが」と連呼していたような次元は、とうに超越してしまっている。テクニックを軽視して良いなどとは全く考えていないが、それならば、「ミス・タッチばかり」の演奏なのに、何故こんなに感動するのだろう? 実を言えば、私とて正直(あれだけ輝かしい技術と音楽性を兼ね備えていただけに)ショックは禁じえなかったのだけれど、響きの美しさと、浮き立ってくる旋律の音色に、本当に心を動かされた。

ゲルバーは、感傷に流されることなく楽曲に対して厳しい解釈をする人、という印象を持っていた。それに加えてあの音の美しさだから、これほど素晴らしいピアニストなのだ、と。それが当日の演奏からは、「厳しさ」よりも、(感傷というのとも違うのだが)感情の波が直接届いてくるようだった。それが意外でもあり、「ああ、ゲルバーもそういう年齢に達したのかな」という、聴く側としての感傷もあり、少々センチメンタルな気分に浸ったのだった。

そんな気分になったのには、開演の2時間ほど前に、偶然裏口への通路上で、控え室に向かうらしいゲルバー本人を見かけたせいもあるかも知れない。ステージ上の照明に細かく注文を付けるなどの、往時の逸話からは、神経質で少し我儘な人物を想像していたのだが、実際に見たゲルバーは終始にこやかで、穏やかにスタッフと言葉を交わしていた。

「なんだ、ゲルバーって好人物なんだ。」

さいたま芸術劇場は、音楽ホールとしては良いホールなのだが、立地は良くはないし、何と言っても埼玉だし、大収容でもない。よくこんなホールで弾く気になってくれたな、と地元民としては嬉しくも不思議な気持ちだったのだが、通用口での姿を見て、何となくそれが解った気がしたし、「もうあまり大きなホールで弾く気はない」という真面目な性格でもあるのかも知れない。というか、演奏家としての良心と良識を持ち合わせている人なのだろう。

ただし、鼻腔をくすぐるアロマ(?)は健在だったようだ(笑)。(2008/05/12)

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