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『利口な女狐の物語』

松本は空気と水が清涼で、初めて行ったときからとても気に入っている。サイトウキネンのオペラは3年ぶり。今年はヤナーチェクの『利口な女狐の物語』を聴いた(8月26日・まつもと市民芸術館)。

まず素直な感想は、「聴きに来て良かった」。芸達者な歌手たちと、おもわず嬉しくなりクスクスと笑ってしまうような動物たちの衣装(事実、会場内には笑いのさざなみが起こっていた)。虫たちのダンスはもちろん、その動物たちの仕草の振り付け(?あの仕草も振り付けの範疇なのだろうか? それとも演出?)が絶妙で、動物の世界が人間の戯画化だということも無理なく納得させてくれる。

この物語では、森番の妻とふくろう、校長と蚊、神父とあなくまが、それぞれ歌手の一人二役になっているが、蚊とあなくまが、校長と神父の姿で人間として登場しているときにも、テリンカと間違われる女狐は女狐の姿のままこの二人と接点を持つ。別に酔っぱらった校長の幻覚だから、と言ってしまえばそれまでなのだが、このシーンは謎めいていて、何事かを考えさせる(不勉強でしかとは解らないのだが)。このある種幻想的な出来事が起こる場にひまわりがある、というのも何か意味があるのだろうか。

今回の演出を手がけたロラン・ペリー自身のノートに「我々はもっとも具体的なレアリズムからもっとも夢に満ちたイメージの世界へと移ることになるだろう。(・・・)この信じられない大きな隔たりを可能にするのが、ヤナーチェクの素晴らしい音楽なのだ(公演プログラム49ページ)」とあることからも、やはり夢と現実との間(あわい)にひまわりがあるのかな、などと考えてしまう。

個人的に大変おもしろかったのは、第一幕第二場の、女狐が雌鶏に向かってフェミニズムばりの演説をする場面。鶏の衣装と動きが、女狐の主張とかみ合わない鶏たちのすれ違いぶりを風刺していることを見事に表現していた。

私は動物が好きなので、第三幕第一場で女狐が撃たれてしまうところなどでは「あぁ」と思ってしまうのだが、ラストでカエルが森番に、「それは僕のおじいちゃんの話だよ」と言うところで救われる気がする。この作品全体として、弱肉強食の世界をきれい事にすることなく描いているにも拘らず、不快感を感じさせないし、お涙頂戴的な要素も少ない。淡々と描かれているようで、読後感というか聴いた後の気持ちに、輪廻転生の理が静かに降りてくる、そんな作品だ。それはやはり、ロラン・ペリーも言っているように、ヤナーチェクの音楽のなせる技なのだろう。

舞台上でこれだけの素晴らしい世界が織りなされていただけに、音楽の音量過多が残念だった。客席に届く響きがもう少し洗練されれば、ヤナーチェクの音楽の繊細さが表現され、申し分ない上演となったことだろう。(2008/08/28)

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コメント

 こんばんは。
 他所様のブログを回ると、殆んどの人が歌手・オケ・指揮・演出の何れかに不満を感じているが、でも楽しい上演だった、と云う意見でした。僕もやはり、全部少しづつ物足りなかったが概ね満足、でしたね。

投稿: Pilgrim | 2008年9月10日 (水) 21時04分

Pilgrim さん、こんにちは。コメントをどうもありがとうございます。

まぁ、オケは、テクニックが高いのは今さら私なんぞが言うまでもないことなのですが、いつものごとく「これはオーケストラのコンサートじゃないんですけど・・・」と思うくらいのじゃかじゃか音量でして、それがちょっと。。
私の知る限り、オペラの指揮でスコアを置いていない、というのも初めてでした。スコア研究に熱心な方だけに、謎でしたが・・・

投稿: ウルズラ | 2008年9月12日 (金) 11時03分

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» ヤナーチェク 「利口な女狐の物語」 [オペラの夜]
<フィレンツェ・マッジョ・ムジカーレ共同制作/プリミエ> 2008年8月26日(火)18:30/まつもと市民芸術館 指揮/小澤征爾 サイトウ・キネン・オーケストラ 東京オペラシンガーズ 演出・衣装/ロラン・ペリー 美術/バーバラ・デリンバーグ 照明/ペーター・ヴァン・プラント 振付/リオネル・オッシュ 女狐ビストロウシュカ/イザベル・ベイラクダリアン 雄狐ズラトフシュビーテク/ローレン・カーナウ 森番/クィン・ケルシー 森番の妻&梟/ジュディス・クリスティン 校長&蚊/デニス・ピーターソン 神... [続きを読む]

受信: 2008年9月10日 (水) 21時04分

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