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2008年11月

平野玲音 チェロの夕べ

何故と問われても困ってしまうのだが、秩父鉄道が好きだ。高崎線で熊谷まで行き、乗り換えで秩父鉄道のホームに降りると、そこは既に懐かしい雰囲気に満ちていて、何とも言えずホッとする。ときどき長瀞や秩父に、特別用事がなくても行ったりする。以前から、秩父の「ちちぶびいどろ美術館」が気になっていた。どうもお茶くらいできそうな感じがするのだが、格子戸が閉められているから入れないのかな?と思って通り過ぎるばかりだった。

その「ちちぶびいどろ美術館」で、タイトルの演奏会が開かれるというので、早速出掛けた(11月15日)。

平野玲音の演奏は過去にも何度か聴いているが、聴くたびに、殻を打ち破る昇り龍のごとき変化を客席にも感じさせ、時に圧倒されるようなスケールの大きい演奏をする人である。「いったい、どこまで昇ってしまうのだろう・・・」と、こわごわ(?)聴きに行ったのだが、今回は、別の側面で驚くことになる。

1曲目のバッハ『無伴奏チェロ組曲第2番』では、バッハの音楽に深く深く分け入っていく解釈で、こちらにもその深淵を覗かせてくれるような演奏だった。これまでは涼やかな表情で大きな音楽を作っていた人が、今回は音楽も表情も謹厳な雰囲気で、また新たなフェーズに踏み出したのかな、と強く感じたのだった。

しかし驚きはバッハだけに留まらず、2曲目のシューマン『アダージョとアレグロ』では、音色も雰囲気もガラリと変り、張りのある華やかな音楽を紡ぎだし、3曲目のベートーヴェン『ホルン・ソナタ(チェロ版)』では、ベートーヴェンのあるジャンルによく聴かれる、語りかけるような、(作曲家・演奏家双方の)音楽の送り手の息遣いが感じられるような暖かい演奏で、今回は「圧倒」という感じではなかったものの、そのあざやかな変容を前にして、戸惑うほどだった。

そして特筆すべきなのが、ピアノの高橋牧子。アンサンブルでのピアノというのは、単に音量を抑えれば良いというものではなく、聴く側としても非常に困難を伴うという認識を筆者は持っているのだが、高橋のピアノは、綺麗に響いていながらチェロの音を決して消すことなく、むしろ響き合って広がりを持たせるような、稀有な演奏だった。今回初めて聴いたのだが、たまたま客席で近くに座っておられた御母上のお話だと、ご本人がもともとアンサンブルのピアニストを希望していたとのことで、それがこの調和を生み出しているのかと、得心がいったのだった。

演奏会後のビュッフェでは、演奏者も含めて自然と会話が盛り上がり、とても和やかな一夜となった。(2008/11/16)

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